ページトップ

プレスリリース

イレッサ訴訟を契機に薬の有効性と安全性を考える

2011年5月1日

肺がん治療薬イレッサの副作用によりお亡くなりになった患者およびご家族の皆様に謹んで哀悼の意を表します。

肺がん治療薬イレッサをめぐり、患者と遺族が国と製薬企業に損害賠償を求めた訴訟は現在係争中です。新薬開発・臨床試験・薬物療法に関する専門家の集まりである日本臨床薬理学会は、この機会に新薬の開発と承認、市販後の適正使用について改めて考えてみたいと思います。

私たちは、副作用がなく有効性だけが発揮されるような薬を求めていますが、そのような理想的な薬はありません。イレッサはその効果が期待され、世界に先駆けて日本で発売されました。イレッサの効く患者さんは欧米人に比べ日本人で多くみられます。イレッサの場合は、日本で先行して使用が開始されたために副作用も日本人の患者さんが初めて直面することとなりました。副作用については日本人のデータが大きな重みを持ち、どのような患者さんに間質性肺炎や急性呼吸障害が出現する危険性が高いのかが解明され、その後、イレッサを使用する世界中の患者さんにとって貴重な情報となりました。一方、イレッサの事例と異なり、これまで多くの薬は海外での承認が日本より先行していました。海外ではすでに治療薬として承認されていて、日本では未承認の薬が抗がん薬を含め存在し、ドラッグラグと呼ばれています。ドラッグラグは、未承認薬以外に治療の選択肢のない重篤な疾病の患者さんにとって切実な問題となっています。新薬が国から製造販売承認を得るためには治験と呼ばれる何段階もの臨床試験が行われ、安全性や有効性が確かめられます。しかし、治験の段階では臨床試験に参加する患者さんの数が限られており、どのような副作用がどの位の頻度で出現するのかを把握するには限界があります。他国に先行して承認された場合には、薬の恩恵をいち早く手にする可能性がある一方、副作用にもいち早く曝される可能性があります。逆に、ドラッグラグと呼ばれた薬の場合は、有効性とともに安全性の評価は海外においてある程度なされています。

薬には有効性とともに副作用も潜んでいます。そして、ある患者さんには有効性だけがもたらされ、ある患者さんには副作用だけが出現してしまう事があります。薬の必要性は、個々の患者さんの疾病のみならず重症度によっても変化します。重大な副作用のおそれがある薬でも、他に治療の選択肢がない疾病の患者さんには必要な場合があります。ここに新薬の開発と承認の難しさがあります。

製造販売承認前の臨床試験である治験にどこまで確実性を求めるか、また、発売後間もない時期の使用方法や臨床研究のあり方については様々な考え方があります。日本臨床薬理学会は、新薬の開発と承認、および市販後の適正使用のあり方について国民的な理解を深めるよう検討の場を積極的に提供し、幅広い国民的議論が行えるように努めて参りたいと思います。本年12月に浜松市で開催される第32回日本臨床薬理学会年会の折には市民講座の開催を予定しており、そこでこれらの課題について議論が出来ればと考えております。

なお、本声明は私たちが自主的に作成して公表したもので、如何なる組織・団体・個人からも声明の依頼や文案の提供を受けていないことを申し添えます。

一般社団法人日本臨床薬理学会
理事長  景山 茂

ページトップへ