学会概要
理事長挨拶
一般社団法人 日本臨床薬理学会・理事長就任して
琉球大学大学院医学研究科 臨床薬理学 植田真一郎
2020年12月から日本臨床薬理学会の理事長を拝命いたしました。
私は横浜市立大学医学部附属病院での研修医の時、なぜこの薬?なぜこの投与量?なんで効いていると判断できるのか?誰にでも同じような効果があるのか?などの疑問が指導医に聞いてもなかなか解決できず、そこで故石崎高志先生の名著「臨床薬理学レクチャー」に出会い、当時国立国際医療センターの臨床研究部にいらっしゃった先生を無謀にも訪ね、運よくその謦咳に接することができました。1991年からスコットランドのグラスゴー大学で学会の海外派遣研究員として臨床薬理学研究のトレーニングを受け、2001年に琉球大学医学部に臨床薬理学講座が開設され赴任いたしました。臨床薬理学の勉強もですが研究と教育にずっと携わることができたのは幸運であり、いろいろな方の助けがなければできなかったことです。
臨床薬理学とは何か?と聞かれます。おそらく変わらぬ真実は「臨床薬理学レクチャー」の序文にあります。少し長くなりますがここに引用します。
過去の薬物療法は”What”には確かに答えている。…….しかし”how to use”と“how to evaluate”という設問にきめこまかに治療学が答えてこなかったのではないかと疑問を持つのは著者ばかりであろうか? 有効に薬物の効果を発揮せしめるためにはどうしたら良いのか,効果を客観的に判断するためにはどうしたら良いのか、またそのためにはどのような根拠が必要になるのかなどは多くの臨床家が持っている疑問であろう。………治療には個別化と至適化がどうしても必要である。そこで治療薬物モニタリングに基づき、薬物動態と臨床効果の相関をフォローしながら個々の患者に至適薬物療法を行おうとすること、これが臨床薬理学の患者志向のゴールである。 石崎高志 臨床薬理学レクチャー 1985 5/15医学書院(現在絶版)序文より
今は薬物動態以外にゲノム情報など個別化、至適化に向けた多くの指標を使うことができます。でもその目的は不変であると思います。これを実現するためには現在ならではの課題も多く出現してきました。抗がん剤の開発が進み、心不全や糖尿病患者も多くの新薬の恩恵を受けることができます。しかしその一方で高齢化に伴う多併存疾患の問題、複雑性の高い患者、医療の分断や医療格差の問題などが顕在化しており、個々の患者にとって適切な薬物療法を行うためには臨床薬理学もこのような領域にもチャレンジしなければなりません。 この学会は医師ばかりではなく、薬剤師、看護師、臨床研究の支援を行う方が会員になっていただいています。「入口」である薬剤の開発からゴールである個々の患者へ適切な薬剤を適切に届けるまでThe best wayを一緒に考えたいと思います。
どうかよろしくお願いいたします。
令和3年1月吉日
一般社団法人日本臨床薬理学会
理事長 植田真一郎
(琉球大学大学院医学研究科臨床薬理学講座 教授)